ARの歴史と、これから実現する未来像を解説。ARToolKit→セカイカメラ→Microsoft Mesh→?

Technology
2021.05.13 | Motto AR編集部

AR技術は、これまでどんな歴史をたどってきて、またこれからどんな社会を形成していくのでしょうか。本記事では、100年以上前に発表されたARの元となる概念をご紹介し、その後の技術やデバイス発展の歴史を振り返り、そのうえで、現在できることや日常生活へのインパクト、中長期的に実現しうる未来像などを解説していきます。

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現実世界の視野に対して、さまざまなデジタル情報を重ねあわせてみせるAR(Augmented Reality)技術。ここ10年以内でゲームなどのエンタメ領域をはじめ、ビジネスシーンや医療現場など、さまざまなフィールドでの活用が進んでいる、いま最も注目されているテクノロジー分野のひとつです。

このAR技術は、これまでどんな歴史をたどってきて、またこれからどんな社会を形成していくのでしょうか。本記事では、100年以上前に発表されたARの元となる概念をご紹介し、その後の技術やデバイス発展の歴史を振り返り、そのうえで、現在できることや日常生活へのインパクト、中長期的に実現しうる未来像などを解説していきます。

なお、ARの概念について詳しく知りたいかたは、以下の記事もご参照ください。
ARとは? VR・MR・xRとの違いやビジネスでの活用を解説!!

ARの「概念」が誕生した1901年

Grubbが1901年に発表した論文で描かれた小型のコリメータ反射式照準具(画像出典:Wikimedia Commons File:Grubb reflector sight – third version.png

Augmented Reality(拡張現実感)という言葉は1990代にできたものですが、その概念の誕生自体は、実は1900年代初頭にまで遡ります。

その最初の技術的ブレイクスルーは、アイルランド出身の天体望遠鏡設計者ハワード・グラッブ(Sir Howard Grubb)氏により1900年に発明された、軍人の射撃をサポートする照準用の光学装置だと言われています。

1901年に雑誌『The Scientific transactions of the Royal Dublin Society.』にて発表された論文「A new collimating-telescope gunsight for large and small ordnance.」では、同氏が設計するコリメータ反射式照準具というものを使うことで、人の目が一度に一つの照準深度だけにフォーカスするという問題の解決に寄与しました。

それまでの金属製照準器を使うと、照準器に焦点を定めると標的がぼやけてしまい、一方で標的に焦点を絞ると照準器がぼやけるというトレードオフが発生していました。しかし、Grubbの発明によって照準器と標的の両方がクリアに確認できようになり、結果として狙撃手やパイロットの命中精度が劇的にあがることとなりました。

標準対象という現実世界の物事に対して、照準器という拡張情報を付与し、現実でのアクションへ影響を与えたという観点で、これが最初のAR的な技術だと言えるでしょう。

オズの魔法使いの作者も描いていたARデバイス

なお論文が発表された1901年には、『オズの魔法使い』で有名な米国の小説家ライマン・フランク・ボーム(Lyman Frank Baum)氏による小説『The Master Key: An Electrical Fairy Tale』で、現在でいうARグラスのような装置が登場してきます。

主人公がプレゼントされた「Character Marker」というメガネを装着すると、視界に映る人の性格が、アルファベット1文字で表現されるというものです。善人は「G」(Good)、悪人は「E」(Evil)、賢い人は「W」(Wisdom)、愚かな人は「F」(Fool)といった具合です。

このように1901年は、奇しくも現在のARの概念がサイエンスおよびフィクションの両サイドで世の中に展開された、画期的な年だったと言えます。

Augmented Realityという「言葉」が生まれた1990年代

それから約90年後、1992年に「Augmented Reality」という言葉が誕生しました。当時ボーイング社の研究員だったトム・コーディール(Tom Caudell)氏と、コンピューター科学者だったデービッド・ミゼル(David Mizell)氏が、論文「Augmented reality: An application of heads-up display technology to manual manufacturing processes」を発表したのです。

航空会社の研究者として、航空機製造におけるさまざまな人的コストを削減して作業効率をあげるための支援ツールとして、現実世界と仮想画像情報を組み合わせたHMD実装のプロトタイピング手順を説明しました。

ちょうどこの時代は、世の中がIT革命に向けて、テクノロジーの民主化が一気に進もうとしているタイミング。AR技術は加速度的に発展していくことになります。

Virtual FixturesとKARMA

論文が発表されたのと同じ1992年に、米空軍・アームストロング研究所で開発・導入されたのが「Virtual Fixtures」。ARおよびVRの先駆的なプラットフォームとして、同じく航空機の操作能力向上のために設計されたものです。こちらは起業家としても有名なルイス・ローゼンバーグ(Louis B. Rosenberg)氏が導入を進めました。

ローゼンバーグ氏自身がVirtual fixtureをテストする様子(画像出典:Virtual fixture by. Wikipedia )

また翌年の1993年には、今度はコロンビア大学のスティーブン・フェイナー(Steven K. Feiner)教授が、レーザープリンターのメンテナンスを行うARシステムプロトタイプ「KARMA(Knowledge-based Augmented Reality for Maintenance Assistance)」を発表しています。

「KARMA」はシースルー型HMDを使用しており、どの部分を引き出すなどして操作すれば良いのかを、現実越しにCG情報で指示してくれるシステムです。画期的ではあったものの、プリンタの位置や方向を測定するLogitech3Dトラッカー(下画像の小さな三角形の超音波センサー)を対象物の全てに装着する必要があったため、汎用化には至りませんでした。

KARMAを操作している様子(画像出典:KARMA by. コロンビア大学プロジェクトページ

1998年には、アメリカンフットボールのTV中継でもARを導入

この時代になると、ARはHMD装着のケースだけには限らなくなりました。

たとえば1998年には、NFLやNBAといったさまざまなプロスポーツにテレビ視聴機能を提供していたSportsvision(2016年にメディア企業のSMTに買収)が、アメリカンフットボールのTV中継にて、実際にはないフィールドラインを画面上で可視化するシステム「1st & Ten」を開発しました。

テレビで試合をみたことがある人ならば、下の写真のように、フィールドラインが黄色などで強調されている様子を目にしたことがあるのではないでしょうか。

今日ではTV中継では欠かせない存在として多くの人が認識しているシステムだからこそ、ARは広く普及するポテンシャルを秘めた技術だということが、ここからも分かります。

AR民主化の旗手となった「ARToolKit」

ここまでお伝えしてきたARシステムは、大学や大企業など、高額な資金投入ができるプレイヤーだからこそ実現するものでした。

この状況を一変させたのが、1999年に発表された「ARToolKit」です。こちらは、現奈良先端科学技術大学院大学の加藤博一教授(当時:大阪大学大学院 基礎工学研究科 西田研助教授)が、ワシントン大学HITラボ滞在中に開発したARソフトライブラリです。

高価な位置姿勢計測装置が必要だった状況に対して、単眼カメラと、印刷すれば誰でも作れる平面マーカーによって、対象物の位置姿勢計測を行えるようになったため、ARの実装はもとより、エンドユーザーによる利用も圧倒的にラクにしました。

特にARToolKitは、当時の加藤教授が研究していた「幾何学的整合性」を実現しており、同時に多数のマーカーの計測が可能になりました。詳細は、当時発表された論文「Marker Tracking and HMD Calibration for a Video-Based Augmented Reality Conferencing System」にまとめられています。

なお、現在はマーカーによるトラッキング技術の研究がひと段落し、マーカーレスへとその軸が移っています。マーカーレスARについては、以下の記事もご参照ください。
マーカーレスAR/WEB ARとは?最新技術の活用事例を紹介

エンタメ領域でのAR発展

もう一つ、AR技術の爆発的な普及を後押ししたのはエンタメ領域でした。

2000年に、南オーストラリア大学のWearable Computer Labが発表した「ARQuake」は、ユーザーが市販のノートPCを背負い、銃形のコントローラーを使いながら、現実の世界に重ね合わさる形で出現するモンスターを銃撃するARシューティングゲームです。

また、日本でARを使った大衆用ゲームとして登場したのが、2007年にPlayStation 3用ゲームとして発表された「THE EYE OF JUDGMENT」シリーズでした。こちらはTVゲームとトレーディングカードゲームを融合させた内容となっており、付属のUSBカメラでトレーディングカードを読み取ると、そのキャラクター情報がゲーム画面に表示され、オンラインでリアルタイムに対戦を楽しむことができるようになりました。

セカイカメラ

さらにゲームだけではなく、2009年にリリースされた位置情報スマホアプリ「セカイカメラ」も、多くの人にARの概念を浸透させたパイオニアだといえます。セカイカメラとは、頓智ドット株式会社(当時)が開発したスマホ向けARアプリで、いろいろな場所でアプリを起動してカメラをかざすと、「エアタグ」と呼ばれる情報を空間上に表示することができました。具体的なイメージは、以下の動画をご覧ください。

セカイカメラ自体は、このエアタグが増えすぎて整理が追いつかなくなったことなどを背景に、2014年にサービスをクローズすることになりましたが、ARアプリの代表格として、現在に至るまで高い知名度を誇ったサービスだと言えるでしょう。

Pokémon GO(ポケモン・ゴー)

その後、日本でARの大きな波が到来するのは、2016年にリリースされた「Pokémon GO(ポケモン・ゴー)」でした。こちらはご存知の人も多いのではないでしょうか。

Pokémon GOでは、現実世界の地図がそのままゲームマップになり、ポケモンを捕まえたり、バトルしたり、交換するといったことが可能です。セカイカメラ同様、バトル時にアプリのカメラをかざすと、さも現実世界にポケモンが出現したかのような形でプレイを進めることができます。

このように、2010年前後の日本におけるAR技術の爆発的な普及は、主にスマホデバイスによるエンタメアプリが牽引していきました。

ビッグテック各社によるウェアラブルデバイスのリリース

一方で、スマホ以外のデバイスの開発も、GoogleやMicrosoftといったビッグテックを中心に、開発が進んでいきました。

Google(Glass)

一般的なビジネスパーソンへの認知が広がった取り組みとしては、2013年にGoogleが発表した「Google Glass(グーグル・グラス)」があげられます。こちらは同社の研究開発プロジェクト「Project Glass」から発表され、これまでのように手動でなにかしらの操作が必要なものとは異なり、音声認識による操作で実質的なハンズフリーの実現を目指したスマートグラスでした。

しかし、発表当時の技術的な限界と、プライバシーなどの社会的な問題が合わさって、エンドユーザーへの販売は中止。現在に至るまで、法人向けの開発用キットとして存続することなりました。

Magic Leap(Magic Leap One)

ARに対する期待値を大きく高めたもう一つの存在が、2010年創業のMagic Leap社でしょう。同社は創業以来、数年間は極端なまでに情報を公開してきませんでしたが、2017年末に「Magic Leap One」というMRグラスを発表しました。正確には、同社はこの技術をARでもMRでもなく「Spatial Computing(空間コンピューティング)」と定義しており、現実世界への仮想情報の投影を一歩超えて、より両者がインタラクティブに情報などの授受をすることを想定してプロダクトがデザインされました。

なお、MRの概念について詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。
MRとは?AR・VRとの違いや活用事例・デバイスを解説!

Microsoft(HoloLens & Microsoft Mesh)

このMR用デバイスとして、Microsoftが2015年に発表したのが「HoloLens(ホロレンズ)」です。

HoloLensはWindows10が搭載されたワイヤレスのスタンドアローン型HMDで、高精度の音声認識を搭載しているため、ハンズフリーでの認識が可能なAR体験を実現しました。また音声だけではなく、ハンドジェスチャーによる操作も可能となっていて、同社によるKinect(キネクト)センサーと組み合わせることで、より複雑なMRオペレーションを可能としました。2019年2月には、後継のMicrosoft HoloLens 2が発表されています。

さらにMicrosoftでは、新しいMRプラットフォーム「Microsoft Mesh」を、2021年3月に発表しました。こちらは、まるで同じ部屋にいるかのように投影される「ホロポーテーション技術」を使って、先述した「HoloLens 2」を装着したメンバー同士が、物理的な場所を問わずに会議などをアバター経由で実施できる未来が描かれています。

まずは数カ月以内に開発者への提供が開始されるとのことで、実用シーンで利用されるのはこれからとなりますが、コミュニケーションの革新的な未来をもたらすプラットフォームとして、各方面からの注目度は高いと言えます。

なお、このMicrosoft Meshについては、以下の記事もご参照ください。
MRの世界を変える!?新プラットフォーム「Microsoft Mesh」とその可能性を解説

これからのAR技術

以上のような形で進化を遂げてきたAR技術ですが、ここから先の時代では、どのような未来をもたらしてくれるのでしょうか?

さまざまな可能性があるなかで、これからのAR発展のカギは、他の先端テクノロジーとの組み合わせにあると、Motto AR編集部は想定しています。

特に、2020年から本格的にスタートした5G技術によって大規模通信が可能となり、AIやIoTの活用が加速度的に進んでいくと考えられます。

AIとARが組み合わさることで、AIベースの超解像度によるリアルタイムレンダリング画像がARコンテンツとして表示されたり、コンテンツそのものの高度なリコメンドシステムが整備されることが想定されるでしょう。

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また、IoTとARが組み合わさることで、中長期的には「デジタルツイン」と呼ばれる現実世界そっくりのバーチャル空間上の再現世界が実現するとも考えられます。2021年3月には国土交通省が、都市の3D化プロジェクト「Project PLATEAU(プラトー)」のバージョン1.0を公開しており、産官学一体となっての取り組みが加速しています。

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さらに、デバイスという観点で考えても、たとえば2020年3月には網膜に直接映像を照射するARスマートグラス「RETISSA DisplayII」が発表されており、バーチャルと現実世界の境目は、ますます溶けあっていくことが想像できます。

DXを進めるときこそ温故知新

以上、今回はAR技術の過去と未来について解説しました。このように俯瞰してみると、AR発展の歴史は、デバイス発展の歴史でもあると言えるでしょう。

DXを進めるときこそ、温故知新です。かつての先人たちが起こしたブレイクスルーを参考に、私たちのビジネスシーンでもARのような最先端技術を積極的に取り込んでいくことが、新たなる動きの起爆剤になるかもしれません。

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